2014年 07月 05日
トリノでラファエル前派 |
今月の13日までトリノでやっている、ラファエル前派の展覧会に行きました。
かれこれ10年くらいこのラファエル前派という存在を知って、それ以来機会があれば展覧会に行ったり、画集を眺めたりしているのだけど、中でも私が好きなのはダンテ・ガブリエル・ロセッティ(1828-1882)という画家。この人は、詩人なのだけど画家としての方が有名。
イタリア系移民のイギリス人。
詩人であった父の影響で幼い頃からスコットの小説や、中世の騎士物語に親しみ、次第にダンテの作品を読むようにもなり、偉大な詩人であるダンテと同じ名前を持つ彼にとってダンテの作品は重要さを持つことになり、度々彼の作品の題材として扱われた。
ラファエル前派というのは、ロセッティがロンドンのロイヤル・アカデミー付属美術学校に通っている頃に、同級生であったミレーやウィリアム・ハントらと作った反アカデミー的なグループのこと。
(ルネサンスの巨匠・ラファエロがアカデミーでは模範だったけど、彼らはそれ以前の素朴さを求めた。)
もしくは、その後にロセッティを慕って集まったエドワード・バーン・ジョーンズなども含めた人々までを指す場合もあって、今回の展覧会は後者の方でした。
さて、展覧会のポスターはミレーの「オフィーリア」だったので、これが今回の目玉なのねと思いながら入場すると、びっくり。
いきなり最初の部屋にどどーんと「オフィーリア」があるじゃないですか!
1回、東京でもこの絵は見たことがあったのだけど、今回はかなり近くまで近寄って見ることもできたので(監視のアルバイトしていた身としては、この近寄り方は日本なら監視員泣かせだよなと思いつつの接近 笑)今までは知らなかった細かいところまでよく見えました。
オーディオガイドもなかなかよかったです。
今まさに、死んでいこうとしているオフィーリアの空虚な目。
すごく小さなきれいな白い点が目の中に描かれていて、ちょっと離れるともう見えないくらいなのだけど、これがこの妙にきれいだけど「怖い」目の正体なのかな。
嫉妬と死を表すひなげしの花。
水の中でも美しくたなびく長い髪の毛は、画家がモデルを使って何度もバスタブで研究したとか。
ミレーの絵で他に印象に残ったのは、
「マリアーナ」
ドレスの青い色が、あまりにも美しくてずっと眺めてしまった・・・。
でも、家に帰ってよく調べたらこの女性は婚約者をずっと待っている女性で、「死にたい」とか言ってるらしい・・えー、そうだったのか。
「両親の家のキリスト」
これは、スケッチも一緒にあったのだけど、それだとこの絵とは反対にキリストがマリアにキスをしていて、右の子供(洗礼者ヨハネを表す)はスケッチにはなくて不思議な女性がぼーっと壁に立っていた。
キリスト教を表すモチーフが詰め込まれているのに、当時としてはここまで聖家族を普通の人に描いたこの作品は「キリスト教への冒涜だ!」と酷評された。
さて、お待ちかねのロセッティ。
前にも見た気もするけれども、今回妙に印象的だったのは
「ダンテの見たラケルとレアの幻想」
画集で何度も見て、バックの緑色がビビッドできれいな絵だなと思っていたのだけど、実際にこの絵を目の前にしてみたら、あれ、意外と優しい色合い。
ここには、ロセッティ特有の「熱っぽいまなざし」の女性はいない。
この絵、水盤を眺めているんだなと思ってから視線を下に移すと、下に川が流れている?ちょっと不思議ではないですか?
不思議と言えば、ロセッティの絵で好きな物の1つ
「青の部屋」
謎の楽器がメインにどーんとあって、画面ぎちぎちに4人の女性が描かれている。
どうも私はこのロセッティの「ぎちぎち」感に溢れた構図の絵が好きなようで、この展覧会にはなかったけれども他に好きな絵は
「聖ジョージとサブラ姫の結婚」
「クリスマスキャロル」
あとは今回初めて見て、なかなか好きだなと思ったのが
「花嫁」
ロセッティにとって重要な「ダンテ」モチーフの作品群は、実はあんまり好きではなくて、有名な
「ベアータ・ベアトリクス」
これは、なんというか死のにおいがたちこめすぎていて、どうしても好きになれない。
それもそのはず、解説によればこのモデルはロセッティの妻のリジーで病弱だった彼女は最後にはアヘンチンキというもので自殺してしまう。
かと言って、「花嫁」の真ん中の女性のような「熱っぽいまなざし」の女性も、肉感的な身体やバラ色の美しい唇や頬を持っているのに、どことなく「死」が匂ってくる気がする。
ロセッティの重要なモデル、ミューズだった2人の女性。
ブルネットのジェインと金髪の娼婦ファニー。
ジェインは画家仲間のモリスの妻でしたが、なんと夫の了解のもとロセッティと同棲していたという女性。
ロセッティは、ダンテのモチーフの女性「理想の女性」には、ジェイン。
娼婦や魔女のような女性にはファニーをモデルに。
しかし、ロセッティはこの複雑な関係、そして自殺してしまったリジーへの良心の呵責などから次第に精神を病んでいってしまう。
理想化した中世趣味に没頭し、死をも超える愛を描き続けることでしかロセッティは救われなかったのでしょうか。
それは、なんだか昔ダンテの「神曲」のフランチェスカ・ダ・リミニの部分の挿絵で見た、激しい嵐の中で哀しく抱き合う2人を思い出させますが、実際にこの題材の絵もロセッティは描いています。
ああ、いつかテート美術館に行こう・・・。
PRERAFFAELLITI -l'utopia della bellezza-
Torino- Palazzo Chiablese, Piazzetta Reale
(月)14:30~19:30
(火)(水)(日)9:30~19:30
(木)(金)(土)9:30~22:30
一般料金は13ユーロ(オーディオガイド貸出含む)
かれこれ10年くらいこのラファエル前派という存在を知って、それ以来機会があれば展覧会に行ったり、画集を眺めたりしているのだけど、中でも私が好きなのはダンテ・ガブリエル・ロセッティ(1828-1882)という画家。この人は、詩人なのだけど画家としての方が有名。
イタリア系移民のイギリス人。
詩人であった父の影響で幼い頃からスコットの小説や、中世の騎士物語に親しみ、次第にダンテの作品を読むようにもなり、偉大な詩人であるダンテと同じ名前を持つ彼にとってダンテの作品は重要さを持つことになり、度々彼の作品の題材として扱われた。
ラファエル前派というのは、ロセッティがロンドンのロイヤル・アカデミー付属美術学校に通っている頃に、同級生であったミレーやウィリアム・ハントらと作った反アカデミー的なグループのこと。
(ルネサンスの巨匠・ラファエロがアカデミーでは模範だったけど、彼らはそれ以前の素朴さを求めた。)
もしくは、その後にロセッティを慕って集まったエドワード・バーン・ジョーンズなども含めた人々までを指す場合もあって、今回の展覧会は後者の方でした。
さて、展覧会のポスターはミレーの「オフィーリア」だったので、これが今回の目玉なのねと思いながら入場すると、びっくり。
いきなり最初の部屋にどどーんと「オフィーリア」があるじゃないですか!
1回、東京でもこの絵は見たことがあったのだけど、今回はかなり近くまで近寄って見ることもできたので(監視のアルバイトしていた身としては、この近寄り方は日本なら監視員泣かせだよなと思いつつの接近 笑)今までは知らなかった細かいところまでよく見えました。
オーディオガイドもなかなかよかったです。
今まさに、死んでいこうとしているオフィーリアの空虚な目。
すごく小さなきれいな白い点が目の中に描かれていて、ちょっと離れるともう見えないくらいなのだけど、これがこの妙にきれいだけど「怖い」目の正体なのかな。
嫉妬と死を表すひなげしの花。
水の中でも美しくたなびく長い髪の毛は、画家がモデルを使って何度もバスタブで研究したとか。
ミレーの絵で他に印象に残ったのは、
「マリアーナ」
ドレスの青い色が、あまりにも美しくてずっと眺めてしまった・・・。
でも、家に帰ってよく調べたらこの女性は婚約者をずっと待っている女性で、「死にたい」とか言ってるらしい・・えー、そうだったのか。
「両親の家のキリスト」
これは、スケッチも一緒にあったのだけど、それだとこの絵とは反対にキリストがマリアにキスをしていて、右の子供(洗礼者ヨハネを表す)はスケッチにはなくて不思議な女性がぼーっと壁に立っていた。
キリスト教を表すモチーフが詰め込まれているのに、当時としてはここまで聖家族を普通の人に描いたこの作品は「キリスト教への冒涜だ!」と酷評された。
さて、お待ちかねのロセッティ。
前にも見た気もするけれども、今回妙に印象的だったのは
「ダンテの見たラケルとレアの幻想」
画集で何度も見て、バックの緑色がビビッドできれいな絵だなと思っていたのだけど、実際にこの絵を目の前にしてみたら、あれ、意外と優しい色合い。
ここには、ロセッティ特有の「熱っぽいまなざし」の女性はいない。
この絵、水盤を眺めているんだなと思ってから視線を下に移すと、下に川が流れている?ちょっと不思議ではないですか?
不思議と言えば、ロセッティの絵で好きな物の1つ
「青の部屋」
謎の楽器がメインにどーんとあって、画面ぎちぎちに4人の女性が描かれている。
どうも私はこのロセッティの「ぎちぎち」感に溢れた構図の絵が好きなようで、この展覧会にはなかったけれども他に好きな絵は
「聖ジョージとサブラ姫の結婚」
「クリスマスキャロル」
あとは今回初めて見て、なかなか好きだなと思ったのが
「花嫁」
ロセッティにとって重要な「ダンテ」モチーフの作品群は、実はあんまり好きではなくて、有名な
「ベアータ・ベアトリクス」
これは、なんというか死のにおいがたちこめすぎていて、どうしても好きになれない。
それもそのはず、解説によればこのモデルはロセッティの妻のリジーで病弱だった彼女は最後にはアヘンチンキというもので自殺してしまう。
かと言って、「花嫁」の真ん中の女性のような「熱っぽいまなざし」の女性も、肉感的な身体やバラ色の美しい唇や頬を持っているのに、どことなく「死」が匂ってくる気がする。
ロセッティの重要なモデル、ミューズだった2人の女性。
ブルネットのジェインと金髪の娼婦ファニー。
ジェインは画家仲間のモリスの妻でしたが、なんと夫の了解のもとロセッティと同棲していたという女性。
ロセッティは、ダンテのモチーフの女性「理想の女性」には、ジェイン。
娼婦や魔女のような女性にはファニーをモデルに。
しかし、ロセッティはこの複雑な関係、そして自殺してしまったリジーへの良心の呵責などから次第に精神を病んでいってしまう。
理想化した中世趣味に没頭し、死をも超える愛を描き続けることでしかロセッティは救われなかったのでしょうか。
それは、なんだか昔ダンテの「神曲」のフランチェスカ・ダ・リミニの部分の挿絵で見た、激しい嵐の中で哀しく抱き合う2人を思い出させますが、実際にこの題材の絵もロセッティは描いています。
ああ、いつかテート美術館に行こう・・・。
PRERAFFAELLITI -l'utopia della bellezza-
Torino- Palazzo Chiablese, Piazzetta Reale
(月)14:30~19:30
(火)(水)(日)9:30~19:30
(木)(金)(土)9:30~22:30
一般料金は13ユーロ(オーディオガイド貸出含む)
by barcarolaw
| 2014-07-05 02:48
| 美術